ヨットIMC Sailor's House
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小笠原への
救助隊





小笠原への救助隊

お知らせ
IMC代表の伊東政信氏が去る2013年3月7日に逝去されました。
ご連絡は、下記Y&K宛にお願いします。
Y&K info@co-yk.com
2013年6月20日付掲載


IMCは、豊富な経験と実績を誇る
ヨット・モーターボートのプロフェッショナルです。

ここでご紹介するのは、経験豊富なプロフェッショナルとしての一例です。
話は2006年5月の事で、小笠原にクルーズに行ったヨット(37ft)が故障で動けなくなり、その修理と三浦半島までの回航をした時の記録です。

2006年5月

小笠原への救助隊

ゴールデンウィーク真っ只中の5月1日、Bマリーナの友人Cから電話、「緊急に相談したい事があるから伺いたい」と連絡があり待つ事一時間・・。
「実はこの連休を利用し小笠原へクルージングに出掛けたヨット(37フィート)が父島手前でプロペラを脱落し、漁船にて曳航されて二見港に入ったのでその取付と回航の為に明日(2日)10時に芝浦発の小笠原丸へ乗船してくれないか」との相談。

あまりにも急で長時間の仕事なので即答出来ず午後4時までに回答する約束をし、G・W中ミドルボート選手権等で忙しい会社(店)の一切を女房に任せるので真っ先に妻に伝えたところ「友人とマリーナの為になるなら行って来たら」と快い返事。

5月2日午前6時30分迎えのマリーナの車で芝浦へ向かったが途中、マリーナサイドで前日手配したヤンマーとボルボの2翼固定プロペラとフォールディングプロペラそして各種部品を各宅配営業所で受取り芝浦に到着した。
マリーナのN社員からエンジンはヤンマー3GM40のセールドライブでフォールディングプロペラ仕様である事、また3GM40(馬力アップ)でもUSAヤンマーなのでシャフトの形状が不明なので小笠原に待機しているダイバーと打合せをしながら取付作業を行って欲しいので船内にて取付の手順を検討して下さいと、図面を渡された。

5月3日午前11時20分、25時間(通常26時間だが海況が荒れなかったので)の船旅で寝不足な身体を鞭打って二見港に下船した。
ヨットのオーナー及びクルー(大半は今来た小笠原丸に乗って帰る)達と合流し昼食後、午後1時30分ダイバーと打合せを行い直ちに作業に入る。
作業直前にマリーナのメカニックから連絡が入り、プロペラは2翼固定17×14インチ(ヤンマー製)の指定を受けたので先ずスペーサーとプロペラを挿入、次にロックナットを取付る段になって標準のロックナットは径及びピッチが合わず最終的にパーツ類の中から猶一フォールディング用のロックナットがピッタリと収まる事が判明してそれにて締付けて完了した。 直ちに機走テストを行い、再度ダイバーにお願いして再点検とロックナットの増締めを行い午後5時すべての作業を終了する。

作業の完了とこれから帰路のクルージングの無事を祈り、本州では中々食せない海亀(青海亀)のアラカルトで夕食後、午後7時夕闇迫る二見港を出航。
乗員はオーナーとそのクルー一人、私とマリーナサイドで手配した関西の回航屋さん二人の計5名でオーナーの心情を考慮し、夜間(午後9時より午前6時まで)は常時2人体制での3時間ワッチを組み、オーナーは常にフリーな立場で行動して貰う。

航海中のヘッドは経験豊富な回航屋さんに任せ私はコース取り、艇とオーナーサポートに徹する事に専念する。
出航前の打合せで、少しでも何か思い出を残そうとの事で孀婦岩(そうふうがん)を観て帰ろうとプランしていたのでコースを330度にセッティング、風は南西・風速20ノット。
夜間は2ポイント・リーフのメインセールとユーティリティ電源(航海灯・計器・オートパイロット・電子レンジ等)確保の為にエンジン併用し、艇速を6〜6.5ノットを維持する。

5月4日零時頃、エンジンの排気管から少々白煙が出始めるが未だ異常が認められない、昼頃からその白煙が広がりはじめエンジンの回転数が1500回転以上上がらなくなってしまった。
衛星電話を使いマリーナへ状況説明したが、「小笠原で給油した燃料が悪いのではないか?、潤滑油の減り具合に注意してほしい」と云う答え。
現状ではオイルの減りも認められないが、確かにエンジンに何か異常を来たしている事は確実なので予定の孀婦岩見学を諦めて八丈島へのコース350度に変更する。
もっとも現状の艇速では夜間に到達し、視認するには5〜6時間待機する形になってしまうので
断念の要因でもあったが・・・。

5月5日、さらに白煙が多くなり回転数も安全範囲1200回転程しか保てなり油圧の低下が
気になつたところへアラームが鳴り直ちにエンジン停止し、オイルゲージの点検を行いレベルゲージが下がっていたので補給する。

5月6日午後2時、かねて衛星電話でマリーナから八丈島のエンジン関係のスタッフにコンタクトして頂いていたのと、給油及び潤滑油の補給の為に神湊港(八丈島北東に位置する港)に入港する。
岸壁に接岸すると同時にエンジン・メカニックが直ちに点検したが3気筒の内の1気筒が焼付きオイル漏れを起こし、辛うじて2気筒だけが働いている状態であることが判明した。
ここ八丈島では修理不可能(相当な日数が必要)で東京湾までの一昼夜、エンジンを停止せずに走り抜ければ何とかなるでしょうが、もし停止したら再始動は不可能との事。
今、置かれている現状と関東地方の天気概況(北東の風15ノット)を検討して、伊豆七島はまだ南西が20〜30ノット吹いているので出来る限り早い時間に出航する事に決めた。

午後5時30分神湊港を出航、エンジンの調子と風向の変化を考慮にすべての島々の東側を通るコースにして一路東京湾へ、大島を過ぎた辺りで北東の風に変わった場合を想定して本船航路に入らない様コースを城ヶ島にとりそこから観音崎を目指して午後2時無事マリーナへ帰港を果した。

30年程前にNORC主催の第一回小笠原レースに回航及びレースに参加したが当時は無線方向検知器(DF)と一夜漬けの簡易天測法でオートパイロットも無いので一日3回の位置出し、舵も24時間持ちっぱなしであったことを思えば、何と楽になった事だろう。
GPSで描いたコースをオートパイロットに伝えクルーはセールの選択とトリムさえベストを尽せば目的地にきちっと運んでくれる。
もう一つ、役立った事はドジャーのありがたさだった事を記します。

最新航海計器の中で育ちつつあるヨットマンが、いざ計器がガウンした時の航海術を常日頃考慮に入れて学習する必要があるでしょう。
その為には私達アナログ経験者が多くの艇と接し、その経験を伝えて行く立場である事をこの航海を通して痛感した次第です。
IMC 伊東政信

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